ブラシフードのロス抵抗測定

近年ESCの性能向上によって、ESCのロス抵抗はかなり低く抑えられ、走行後にESC本体が発熱することも少なくなりました。雑誌などでもESCのロス抵抗が多くクローズアップされることもあり、その他のロス要因に目が向けられる機会が少ないように思います。前回レポートしたケーブルロスの測定に続き今回はモータのブラシフードとブラシ側面の接触抵抗を測定し、さらにその低減にチャレンジしてみます。さてどのくらい改善できるか・・

モータ端子に接続されるコード類は半田付けされるのに対し、ブラシフードとブラシは接触しているだけというかなりルーズな接続です。それだけにそこで失われるエネルギーも大きいのではないかと予想しました。そこでまず、標準的な構成におけるロスを測定してみることにしました。

今回はヨコモ製モータ標準のブラシフード(金メッキされ、ブラシダンパーが装着されているもの)を使用しています。ブラシはテクトロの新品ブラシを使っています。他社製のブラシフードやブラシを使うとまた違った結果になると思います。

ロス測定の方法はケーブルロスの測定で使った方法と同じです。接続は次のようにし、この回路に流す電流は15Aとしました。

 

安定化電源 + <-----> モータ端子 <-----> ブラシ <-----> ブラシシャンテ <-----> + 放電器(15A)

安定化電源 - <----------------------------------------------------> - 放電器

 

↑でモータ端子における電圧とブラシシャンテにおける電圧を記録し、そこからロス抵抗を算出しました。

開封したばかりのブラシでは次のような結果を得ました。

実験名 電圧降下 ロス抵抗 (R=V/I)
ノーマルブラシ 13.75V --> 13.64V 7.3mΩ

0.1V以上も電圧降下があるとはちょっと驚きでした。この実験では片側のブラシフードしか使っていないので実際にはこの倍のロスがありそうです。

次に、ブラシの側面(4面)を#3000のヤスリで磨き、脱脂したもので測定してみました。削りすぎるとブラシフードとのガタが大きくなり、ロスを増大させる可能性があるため、表面をほんの少し削る程度にしておきました。

実験名 電圧降下 ロス抵抗 (R=V/I)
ノーマルブラシ 13.75V --> 13.64V 7.3mΩ
側面を磨いたブラシ 13.75V --> 13.67V 5.3mΩ

表面のゴミ(?)が除去されたせいか、ロスが少なくなっています。とは言っても、以前ESCのロス抵抗を測定したときにはおよそ1mΩだったのでブラシフードでかなりロスしていることがわかりました(しかも片側だけですからね・・)

ここからはロス抵抗を低減させるためのレポートです。まずはじめにブラシ側面にメッキ処理を施して通電効率の変化をみることにしました。

ブラシ側面のメッキを施してみた。左からノーマルブラシ、銅メッキ、金メッキを施したブラシ。

このあと、側面を磨き、脱脂することでピカピカになりました。さらに写真にはありませんが銀メッキを施したブラシも準備しておきました。

*銅メッキブラシは表面がすぐに酸化してしまうため、実験では使用しませんでした^^;; ショック

結果は次のようになりました。

実験名 電圧降下 ロス抵抗 (R=V/I)
ノーマルブラシ 13.75V --> 13.64V 7.3mΩ
側面を磨いたブラシ 13.75V --> 13.67V 5.3mΩ
金メッキブラシ 13.75V --> 13.69V 4.0mΩ
銀メッキブラシ 13.75V --> 13.70V 3.3mΩ

おおっ!メッキした甲斐がありました♪銀メッキブラシの方が良い結果になったのでこれを使ってさらに改善を試みます。

次にブラシフード内部にも銀メッキを施して測定をおこないました。

ブラシと接触する部分に銀メッキを施したブラシフード。磨くことで鏡面のようになっています。

結果は次のようになりました。

実験名 電圧降下 ロス抵抗 (R=V/I)
ノーマルブラシ 13.75V --> 13.64V 7.3mΩ
側面を磨いたブラシ 13.75V --> 13.67V 5.3mΩ
金メッキブラシ 13.75V --> 13.69V 4.0mΩ
銀メッキブラシ 13.75V --> 13.70V 3.3mΩ
銀メッキブラシ+銀メッキフード 13.85V --> 13.80V 3.3mΩ

残念ながらロス抵抗に変化はありませんでした。ヨコモのブラシフードには金メッキが施されているので標準状態で使うのが良いようです。

次にブラシフードとブラシ間のわずかな隙間を詰めるために0.03mm厚の銅板を準備しました。これに銀メッキを施し(こうしないとすぐに酸化し、黒ずんでしまうため)ブラシ両端にはさみこみました。実走行での使用を前提にブラシがフード内でスムーズに動くように厚さは微調整しておきました。

これが銀メッキした銅板。写りが悪いですが表面は鏡面のよう・・(ウットリ)

結果は次のようになりました。

実験名 電圧降下 ロス抵抗 (R=V/I)
ノーマルブラシ 13.75V --> 13.64V 7.3mΩ
側面を磨いたブラシ 13.75V --> 13.67V 5.3mΩ
金メッキブラシ 13.75V --> 13.69V 4.0mΩ
銀メッキブラシ 13.75V --> 13.70V 3.3mΩ
銀メッキブラシ+銀メッキフード 13.85V --> 13.80V 3.3mΩ
銀メッキブラシ+銀メッキフード+銀シム 13.86V --> 13.82V 2.7mΩ

やはりブラシフードとブラシの当たりがよくなったせいか、ロス抵抗も少なくなりました。ただ、シムは必要な大きさに切ったり、取り付けに気を使うなど簡単でないのが弱点。

次にパソコン店などで販売されている「接点改質剤」を使ってみることにしました。ラジコン店ではヨコモから発売されている「ナノカーボン」がメジャーですが、この他にも各社から発売されているので色々試してみるとおもしろいかもしれません。今回の実験ではヨコモの「ナノカーボン」とセイシンから発売されている「Silver Contact Pen」(オーディオ用)を使ってみました。

結果は次のようになりました。

実験名 電圧降下 ロス抵抗 (R=V/I)
ノーマルブラシ 13.75V --> 13.64V 7.3mΩ
側面を磨いたブラシ 13.75V --> 13.67V 5.3mΩ
金メッキブラシ 13.75V --> 13.69V 4.0mΩ
銀メッキブラシ 13.75V --> 13.70V 3.3mΩ
銀メッキブラシ+銀メッキフード 13.85V --> 13.80V 3.3mΩ
銀メッキブラシ+銀メッキフード+銀シム 13.86V --> 13.82V 2.7mΩ
銀メッキブラシ+銀メッキフード+銀シム+ナノカーボン 13.86V --> 13.82V 2.7mΩ
銀メッキブラシ+銀メッキフード+銀シム+Silver Contact Pen 13.86V --> 13.83V 2.0mΩ

残念ながら、ナノカーボンの効果は確認できませんでしたが、Silver Contact Penの効果は絶大といった感じです。Silver Contact Penはキャップを取って接点(今回の場合はブラシ側面)に塗るだけという手軽さも得点高いと思います。

これで今回の実験は終わりです。対策を施すことでかなりロスを低減できることがわかりました。電圧降下でいうと、0.11Vあったものが0,03Vにまで改善できました。マッチドバッテリーではすごくシビアに電圧が語られますが、(マニアとしては)ブラシフードのロスを語るのもいいかもしれませんね^^

個人でできそうなレベルはこの辺までだと思いますが、ブラシフード内部の形状を変えてブラシとの接触面積を増やす方法やブラシのガタつきを抑えるスロット追加などでさらにロスを抑える事ができると思います。

次回はモータダイノを使って性能を実測してみたいと思います。