ブラシフードロス実験を検証する

以前実験した「ブラシフードロスの測定」ではある程度ブラシロス(抵抗)を低減することができました。今回はこの実験結果を基にFantomモータダイノでモータ性能を測定してみました。

ブラシフードのロス(電気抵抗)が減ることによってモータの効率が向上すると実験前に予想していました。モータの効率とは入力に対してどれだけの出力が取り出せるかを示すものです。モータは電気的なロス(ブラシフードとブラシ間の抵抗など)と機械的なロス(ベアリングの抵抗、ブラシとコミュテータの接触抵抗など)を持っているので効率100%というのはあり得ません。効率を上げることで実走行では燃費向上につながるはずです。

Fantomモータダイノでどのようなデータが取れるのかはいずれレポートするとして、ここでは効率に関係する値をどのように求めるかまとめておきます。
まずモータの出力はトルク(Nm)と角速度(rad/s)の積で求められます。

モータ出力 = トルクNm x 角速度rad/s

角速度を一般的な回転数(RPM)におきかえると上の式は次のようになります。

モータ出力 = (2π x トルクNm x 回転数RPM) / 60

Fantomモータダイノではトルクはgm・cmで表示されます。1kgf・cm=0.098Nmなので上の式は次のようになります

モータ出力 = (2π x 0.000098 x トルクNm x 回転数RPM) / 60

この式で得られたモータ出力をモータ入力と比べて効率を計算します。モータ入力はモータに与えた電力(=電圧x電流)で計算できます。Fantomモータダイノでは電圧が5Vに固定されているので次の式になります。

モータの効率(%)= モータ出力 / 5V x 電流A x 100

この辺の計算はFantomダイノ・ソフトウェアが計算してくれるので知らなくてもOKです。

今回実験に使ったヨコモ「S World 10T2W」。中古ですが使用頻度が少ないモータを選びました。実験前には完バラしてブラシフードの芯出しなどのメンテナンスを済ませておきます。

進角は1コマにセットしました。この時点でブラシは標準通りネジで固定しています。

Fantomモータダイノ(左)とそれに接続したノートパソコン。すべての操作はパソコンからおこなうスタイル。

まずはノーマル状態のモータを測定しました。

最大パワー(W) 最大回転数(RPM) 最大効率(%)
147.0 27801 61.1

 

次にブラシシャンテをネジ止めからハンダ付けに変えてみました

ブラシをハンダで固定するとデータは次のようになりました。

最大パワー(W) 最大回転数(RPM) 最大効率(%)
150.4 28161 60.6

最大出力パワーが向上しました。最大効率はノーマルとほぼ同じとみていいでしょう。

 

次にブラシシャンテはハンダ付けのままにして、ブラシフードとブラシ間のロスを低減させる0.03mmのシムを挟みました。

シムには脱脂後、ナノカーボンを塗っておきました。

このときデータは次のようになりました。

最大パワー(W) 最大回転数(RPM) 最大効率(%)
150.9 28151 63.0

パワー、回転数はほぼ同じ。効率が3ポイント近くも向上しました。

 

これまでに得られた3つのデータさらに細かく見てみます。Fantomモータダイノが測定したデータを多角的に分析するツール「Dynoビューア」で3つのデータを比べたのが下の図です。これはモータの効率を比較したグラフです。横軸は電流(A)、縦軸は効率(%)になっています。モータはゼロ発進するとき最も高い電流が流れ、そして十分長いストレートエンドで最も低い電流が流れます。ロビトロのスピリットアンプで以前調べた結果では(コースや路面状況にもよりますが)1/12では走行中およそ18〜45Aのレンジを使っているようです(例:低速コーナでの立ち上がり時には45Aくらい、ストレートエンドでは18Aなど)。このレンジで効率を見てみると全域で青(0,03mmシム追加したモータ)が優っています。8分走行の燃費にどのくらい影響があるのかは今はわかりませんが、効果があることは確かでしょう。

次に出力パワーを比較していました。このグラフでみると青(0.03mmシム)と緑(シャンテハンダ付け)の最大パワーはほとんど同じですが、1/12常用域である18〜45Aでは青(0.03mmシム)が優っていることがわかります。

ブラシフードにシムを追加する方法は電気ロスを低減するだけでなく、モータの効率・パワーにも影響を与えることがわかりました。ただし隙間の調整をかなり慎重にやらないとブラシがスムーズにフードの中で動かなくなり、パワー・回転数・効率が逆に悪くなることもありました。シムを入れることによりブラシの当たりが変わるのでブレークインも入念に行う必要がありました。